個人的サイン会体験記/THINKING
韓国でのサイン会に行ってみたいな、というのは、ケーポップを好きになってからずっとなんとなく思っていることだった。好きなひとと直接話してみたいというのはもちろん、現場の空気がどんな感じなのか、一度は自分の身をもって体験してみたい。
でも、ボーダー……とか、言葉がなあ……とか、何よりも、会って話してあれ?なんか違う?となるのが怖くて、尻込みしていた。お金をかけるならコンサートを優先しちゃうので、憧れつつも縁がないのだった。
9月にジコくんがTHINKINGでカムバするとアナウンスされ、ファンからの「サイン会やって」のコメントに対して「10月のpt.2待ってて」と答えてるのをみたとき、ふっと「今行かなかったら、一生行かないかもな、サイン会」と思った。
それどころか、一生ジコくんと一対一で言葉を交わすことはないかもな。
彼は来年兵役に行くだろうし、その前に次のアルバムを出す可能性は高いけど、そこでサイン会があるとは限らない。
ちょっと頑張ってでも、行きたいな、行くべきかもな。頑張ってみようかな。
そう決めた。
11月に入ってすぐのある日、やっと公示が出た。
“ZICO ファーストアルバム ファンサイン会 100名”
ボーダーも何もさっぱりわからん。外国人枠もあるらしい。12月にも渡韓予定があるから、多額はかけたくない。
いろいろ調べたら、今回のショップはコンピューター抽選で枚数による傾斜があると。
なんか腰が引けてしまい、やっぱりやめようかな〜と一度は見送りを決めつつも、平日の夜開催っていうのがすごい狙い目な気がしてならなかった。
購入時間ギリギリまで迷い、えい! とささやかな枚数をポチってオタクの仲間に「買ったよー万が一当たったら行く」とラインしたら、幸運を祈る言葉とともに「もう少し増やして狙っても良いのでは!?」という返事がすぐにきて、それに背中を押されて慌てて買い足した。
賭けというか、おひねりみたいな気持ち。当たればラッキー、外れても売り上げに貢献できていればそれでよしだ。
発表の日は久々に会う友達とごはんの約束をしてたのにギリギリまで仕事が詰まってしまって、当選確認どころじゃなく、移動の電車の中で(そういえば)と思い出した。
期待半分、どうせダメだろうな―という気持ち半分で、当選者発表ページを開く。
当選してた。
え? という気持ちのまま友達が待つ店に行き、ごはんを食べてる間はあんまり実感がなく、よかったね頑張れ! と激励してもらってありがとう〜! と別れたところで「さあどうしよう!?」と焦りがこみ上げてきた。
まず、手紙を書かないとだ、いやその前にプレゼントだ、ほら、みんなあげてる! 写真でよく見るやつ! そうだ今日って酉の市! 熊手を買おう! 商売繁盛家内安全!!
そこから、まずは飛行機と宿を確保。エアーやすい時期で本当にたすかった。
仕事の算段。帰国日の午後に打ち合わせの打診が来てたので、遅めの時間に設定してもらう。
「ペンサ 会話 内容」「韓国 サイン会 撮影」「ペンサ 流れ」なども検索しまくったんだけど、ポストイット買わなきゃ……ぐらいしか頭に入ってこない。やばい。
それから、駆けつけてくれたオタク互助会の仲間と花園神社へ。悩んで悩んで悩んで場内10周ぐらいして、すごくオーセンティックで小ぶりなやつに決めた。ちゃんとKOZの名前で札も書いてもらい、二本で締めてもらった。
これでジコくんも会社も安泰だ!
週末に熊手を特別仕様にカスタム。あとはあったかそうなアンダーシャツと、最近使ってすごくよかったので気に入っているアロマバスオイルの小瓶など、ささやかなプレゼントも入手。
こころが落ち着かずいろんな友達に連絡したら、続々と激励の返信が届き、「熊手にささってる稲は種子なので海外持ち出しNG、取り外していかないと没収される」など、なるほど盲点!って感じの有益情報もバチバチ入ってきた。まじでありがてえ。
そして迎えた当日。
全然眠れなくて、朝出がけに家でうだうだしてしまい、意外と時間ギリギリになって焦る。なんとか空港に到着したところでiPhoneのケーブル忘れたことに気づいて、売店で買った。出費!
さらに、チェックインカウンターで「満員のため持ち込みサイズ内であってもトランクは預けてください」と言われてしまう事態が発生。えー、大事に運びたかったからわざわざ梱包した上でトランクに入れてきたのに!
プレゼントは手持ちしたかったので取り出したら、トランクほぼ空〜みたいな状態になり、これ預ける意味……とか思っていたのだけど、こいつがのちにトラブルの元凶となる。飛行機の到着が若干遅れた上、仁川で荷物が全然出てこない! 本当はさくっと宿に大きいもの置いて会場に向かうはずが直行しないと微妙な時間になってしまった。やむを得ん。
最寄り駅のロッカーに色々と突っ込み、会場へ。
受付で名前を言い、パスポートを見せ、順番が書かれた紙を引いて抽選。
真ん中らへんがいいなーと思ってたけど、90番代だった。
えーん遠いよー、私の番が来る頃にはジコくん疲れちゃってない? 時間足りなくて急かされるのでは!? 不安を抱えながらアルバムを受け取って、しばし待機。同じ状況のオタクたちがたくさんいるからホッとする。
アルバム、とてもこだわって作られていて素晴らしい出来でした。
ポストイット準備したりメッセージカード書いたりしてたら、特にアナウンスもないまま周りで座ってたみんなが次々に会場に向かい始めた。
とりあえず人の後について行けば間違いない、と会場に入る。
舞台中央に長机をはさんでふたつの椅子が置いてあって、うわーあそこでやるんだ! と興奮した。思った以上にスポットが当たる感じでびっくりしたし、みたことあるやつ! とテンション上がったし、99人のファンの視線を浴びながらここに座ってふたりで話をするというのはなんというかセンセーショナルつーか、やっぱり体験して初めてわかることがたくさんあるな!
場内は、席で待機してるときは撮影OK。ちょうど近くに日本人の方達がいたので声をかけて、iPhoneを預けるから動画を撮影してもらえないかとお願いしたら、なんと持っているカメラで撮ってくれると……。初めてなんですと言ったらいろいろアドバイスもくれて、心細い中、ほんとうにホッとした。これは声を大にして言いたいけど、本人が優しいからファンも優しいんだな~!
席に座ってポイの続きを書いてたら周りで黄色い声が上がって、顔をあげたら舞台袖からジコくんが……ひょっこり顔を出しているではないか……!
かわいい!! なにそのぴょこんとした感じ! へへへって笑ってるじゃん少年かよ! ロングコート似合いすぎる!! ハ〜〜やば!!
そのままニコニコと壇上に上がってきて、みなさん〜THINKINGの最初のサイン会始めますよ〜!楽しみましょー! とか言いながら着席。同時に最前列の人たちが席を立つよう促されてステージ横に移動。はじまってしまう!!! えっこんなにぬるっと始まるもんなの!?
そしてまあ、思ったよりもゆっくり時間をかけて話してくれるジコくん。
人が入れ替わるたびに(つまりジコくんの前に人がいない状態になるたびに)あちこちから響くシャッター音がすごくて、緊張感が煽られてしまう。いやー早い番号じゃなくて良かった……前の人たちの様子見ておかないと心の準備ができん……
そしてあの、きっとサイン会ってみんなそうなんでしょうけど、最後列からでも表情がすごくよくわかる。相手の目をしっかり捉えて喋っているのが見えるんですよ。
一人一人とゆっくり話して、プレゼントをもらうたびに嬉しそう。
リラックスして、ファンとのコミュニケーションを楽しんでいるんだろうな、というのが伝わってきて、いつの間にかこっちの心もゆるゆる解けていってた。
ジコくんってどっちかというと怖い顔って言われるし、人を緊張させそうなイメージ持たれがちだと思うんだけど、今の実際の人柄は真逆なんだろうなあ、と常々思っていたから、予想通りのゆるゆる空気を纏ってることがすごく嬉しかった。
途中でスピーカーが急にハウったりしたんだけど、猫みたいな顔でびっくりしてて、それがめちゃくちゃキュートで困った。
なんか90番代ってすごい待つよな〜飽きないかなと思ったけど、おだやかな顔で楽しそうにしてるジコくんのことは何時間でも見ていられるなあということがよーくわかりましたね。
あとは、スタッフが和やかで感じがいいのも印象に残った。
お時間でーすの声かけもゆったりだし、そのとき何かを話したり書いたりしてたら、無理に間に入らず待ってくれてるようだった。
ピリピリ感がないサイン会……。
独立してから色々なことがあって、正直ひどくしんどい状況もあった。
それでも彼を信じてここに来ているファンと、そのファンの気持ちをきっと痛いほどわかっているジコくんと、そんな状況の彼を支えてきたスタッフたち。全員の気持ちが生み出した特別な空気感だったのかもしれない。
3月のイベントの、会場にいた人たちが写真を撮るのもためらったと書いていた、あまりに虚ろな様子とか
4月のHIPHOPPLAYAで久しぶりにステージに姿を見せた時の、ガチガチに張り詰めた感じとか
8月のFXCDのコンサートで初披露したOne-man Showの胸をかきむしるような声とか
9月のアルバムにあった、冷え冷えとしずかで重たい、歌詞カードにはないフレーズとか
ほんとうにキツい年だったと思う。日本から見ている事しかできなかった、いちファンの私でさえかなりキツかったんだもの。
新しいステップを踏み出したばかりだったところに、のしかかってきたものの重さはいかばかりだったのか。
それでも絶対に下を向かず顔をあげて進む姿には、どれだけ力をもらったかわからないな。
行ったり来たりする気持ちとともにぼーっと眺めてたらあっという間(体感)に順番は回ってきて、最後の数人がステージ脇へ移動。流石に心臓がバクバクいう。ひとり、ひとりと終わっていき、私の番が……き……た……!
まず、席に着く前からめちゃくちゃこっち見てニコニコしてる。
椅子に座るタイミングで「あんにょ〜ん」と声をかけてくれて、もうその声が驚くほど柔らかくて、韓国語で挨拶と多少の会話ぐらいがんばr…とか考えてたのが完全に飛んでしまい「アンニョンハセヨ 日本から来ました…」と言うしかなかった。
でもさー! 何なのってぐらいやさしいの、慣れてない日本人が来たな、ってきっと瞬時に理解して「ああ〜!」っていいながら名前ポイ確認して、読み上げながらひらがなで書いてくれて。
思わず「うううこういうサイン会始めてきました好きですすごい嬉しい……」と心の声がダラダラ漏れてしまった。
そんな呻き声も「わあ〜ありがとうございます〜」って拾ってくれる。
いつ来たんですか? 韓国に住んでるんですか? と聞かれたので、今日きて明日帰ると言ったら「このサイン会のために?」とびっくり顔。
そのまま「韓国来てからおいしいもの食べました? まだ? トッポッキ食べてくださいトッポッキ!」などと会話を主導してくれる。
言葉を紡ぎながら、ほんとうにまっすぐにこちらの目を見るから、そのあまりの美しさに、吸い込まれて消えてしまいそうだった。
私が緊張で返事に詰まったら、柔らかーい顔で、言葉が出るの待っててくれる……。や、やさしい……(100回目)。
ポイで眠れない夜にオススメの曲を聴いたら、ニヤッとして迷いなくZICO/balloonと書いてくれたのが妙に可愛くて思わず笑った。
「お、バルーン、好きですか?」と聞かれたので反射的に「大好きです!」と元気よく答えたら、照れたように笑って「ハハ、ありがとうございます」。その「ハハ」のトーンが、やーほんとに照れ笑いしてる感じで、破壊力がすごい。
もうひとつ、日本の歌手とかビートメーカーで気になる人いますか? という質問も書いたのだけど、私のハングルの字が下手で解読に手間取り……でも、文字を指でなぞりながら、言葉に出してひとつひとつわかろうとしてくれた。めっちゃ指綺麗だな、と思って凝視してしまった。
「日本で気になる歌手とか…」と言ったら「ああ〜〜!(そういうことね!)」とわかってくれたその「ああ〜〜!」の声の深くとっぷりとしたトーンに脳をやられてしまい、もうだめだ! と爆発しそうになった。
ちなみに「Verbalさんが好き」だそう。後から考えたら、学生時代に日本で聴いていたのだろうね……胸がぎゅっとするね。
最後、熊手を渡したらめっちゃ不思議そうな顔をしてたけど、あらかじめ説明を書いて貼っておいたのに目を通し、同時に私も「ラッキーチャームがついたお守りである」ということを説明したらすぐ(理解した!)という顔になり、なんと、抜いた稲穂の代わりに作って入れておいたカスタムジコモチーフをちゃんと見つけて「おっ! おれおれおれ〜!!」と指差しまでしてくれた。いろいろ細やかに気づいて、言葉で表現してくれる。手厚い。すごすぎる。
最後にぎゅーっと手を握って笑いながら、もういちどゆっくり「ありがとうございました」と言ってくれて、私は感極まって「うううだいすき…だいしゅきです……」とオギャーバブバブ状態になり、それでも、彼の手がめちゃくちゃ大きくて私の手にぐるっと指が回っちゃうぐらいだったこと、すごくあったかかったこと、ちょっとだけカサついていたこと、ぎゅーっと力がかかっているけど、ああこれすごくソフトに加減してくれているなあ、と思ったこととかは、記憶にしっかり刻まれた。
全員のサインが終わったら、サプライズプレゼントがあって、本人が客席を回ってフォトカードを配るという。座席の間をぬって全員にカードを手渡すんですよ。会場は映画館で、つまり映画館で自分が座ってる席の通路を通るっていうんですよ? なに?
脚長すぎてみんなの目線ジコくんの膝ぐらいの高さだった。それはまあ誇張だけどほんとそのぐらい脚長かった。最後列の我々のところは、残念ながら後ろの通路を歩いてのお渡しだったけど、前歩かれたら記憶飛んでたかもしれないからよかった……。震え声で「カムサハムニダ…」と言ったら「ネ〜〜」とニコニコしながら目を合わせてくれて、その瞬間まじで、雲が晴れて太陽が一気にパーっと出た時みたいな、あったかくて心地よくて、世界に祝福されてる!という気持ちに。君は太陽。こういうことかあ。
いやあ、なんかさ、重ね重ねになるけど、ここまで柔らかいオーラの持ち主なんだなということにすごく感動したね。
怖さとか威圧感がないんですよ。身体めちゃくちゃ大きいのに。穏やかで、すごく何というか……人と人、って感じで接してくれているというか。
互いにリスペクトしているから安心してくださいね、と言われてる感じ。何なら、色んなことから守られているような気持ちすら抱きましたね。
考えてみたら今回のアルバム自体が、純度高く精製した彼自身のこころを、リスナーを信じて預けたというか……。人と人として向き合ってほしいと願って作られた作品だと感じていたから、本人の印象がそれと一致するのは、とても納得がいった。
他人に背中を預けるってすごく難しくて怖いことだと常々思っているのですが、彼はそれができる人なんだよな。
私が見てきたコンサートも、だいたいそういう感じ。自分の意志でやりかたで、妥協しないでステージに立つ。おれはできる全力を尽くすよ。楽しむのも楽しまないのも自由。あとはすべて君次第なんだよ、と言われてる気がする。
ジコくんのコンサートにいると、孤独だなと感じる時がある。ちょっと突き放されてる感じもする。
このステージは彼のもので、彼の人生も彼のもので、もちろん私の人生は私のもので、お互いに干渉はできない。そういう当たり前のことをキッパリ言い渡されてるみたいな。
だけど、それって、人を尊重するという事につながっていると思う。
そして、別々の人生を生きてる人と人だからこそ、支えたり支えられたりできるってることが、ある。
ライブ中に客席におりてきて、差し出されるたくさんの手に体重を預けながら歌うジコくんの姿を思い出す。
全力で何かを表現する瞬間に、他人に背中を預けられるのってものすごくかっこいい。それができる自信がとてもまぶしい。
好きなアーティストが太陽神になり、かっこよさを再確認し、人生初のサイン会は閉幕した。
ペンミや誕生日イベントもすごく誠実にファンと触れ合ってて、本人も安心している感じだったなと思い出す。良い空気が回ってる現場なんだなー。
ホテルに戻ったらもう夜中で、トッポッキは食べられなかったけど、次に会える時までに美味しいお店を見つけて食べておかねば。
いやその前に言葉をもう少し喋れるようになりたいなあ。日本語であんなにしっかり話をしてくれた事には感動したし、私も韓国語で少しでも話をしたい。
たっぷりもらったでっかいパワーで、私も顔をあげて自分の道を進んでいきたいし、あと、ほんとに心から、あんなうつくしい目になりたいのだ。
優しくて、強い。素直で、思慮深い。
それで、いたずらっ子みたいなキラキラした感じ。
行ってよかったサイン会。好きなひとへの尊敬と信頼がまた深まった。
次に会うのはたぶんステージの上と下とになるけど、いつかまたこんな風に近くで話せる機会が持てるのなら、もっともっと伝えたい気持ちがあるなあと思いました。
おっかなびっくりだったけど、やはり行ったらなんとかなるものだ!
ただし、わたしのハングルは解読できない可能性があるので、ただでさえ翻訳機使ってて文章が信用ならんのだし、手紙を書くときはもっといろいろ注意が必要だと!痛感した!!